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ゲーマーコントラバス奏者の雑談2

【雑記】イーハトーヴォ物語のコンサートから思った事

先日は、MUSICエンジンで出演させて頂きましたイーハトーヴォ物語の30周年コンサート、

無事に演奏する事が出来てホッとしております。



この記事では、イーハトーヴォ物語のコンサートを通して、ゲームの構造における演奏会へのスタンスを少し考察をしたいと思います。




今回の公演では、MUSICエンジンとしては珍しく、指揮者がいらっしゃいました。


指揮は、酒井省吾さん。

本業は作曲家で、有名なゲームの数々もご担当されていますが、

指揮は多くは振ったことがないとの事前情報で、


包み隠さず言うと、時と場合によっては、

僭越ながら色々策を講じようと思ってましたが、笑(ぇ

全くそんな心配もなく、むしろ凄くパッションのある分かりやすい指揮で、

何よりスコアをかなり読み込んできている(流石作曲家)のが、演奏しててもヒシヒシと感じられ、

始終、安心して演奏する事が出来ました。


読み込んでいる方の指揮って本当、安心出来るんですよね…。笑


ご相談にも真摯に御対応下さり、指揮者としてもですが、人として良い人やな、と思いました。笑(小並感


と、それはそれとして、


今回、イーハトーヴォ物語の演奏をするにあたって、

指揮者がいて良かったと思う事が幾つかありました。


まず、なんといってもイーハトーヴォ物語の作曲をされました多和田吏さんの演奏されました、トイピアノのパートが非常に珍しい楽器だったので、頭の回転フル稼働でした。笑



前提の話ですが、

指揮者がもし居ない場合、音量バランサー不在となるので、

基本的には奏者同士で、ある程度経験から現状を予測をし、

そこから、自分の出力を考えて探っていきます。


しかし実際の所、コントラバスのパートはステージ端に座る事が多く、

中心で聴いているバランスとは違った状態で聴こえている為、

聴こえてきた音を自身の中で一度、距離単位で脳内補正を行い、

客席にはどう聴こえているか、という予測処理を行います。


更に、コントラバスからみて直線上に各パートが並んでいた場合、

手前に音量が大きい楽器があると、奥の方にいるパートが聴き取り難くなる為、

根本的に、バランスを正しく認識する事が難しくなったりします。


そして何より自身の、コントラバスの音が他の繊細な音をかき消して、聴き取り辛い状態にもします。



多和田さん自身は、超絶ピアノ自体は上手いのですが、(マジで上手い)

トイピアノ自体は楽器の構造上、どうしても音量が小さく、(トイなので)、

対岸にいたコントラバスとしては、自身の音でかき消してしまい、トイピアノの音を聴き取りながらの演奏は、かなり難しい状態でした。


そこで活躍するのが指揮者の存在と、

中央にいるコンサートマスター(今回の場合、河合さん)。


正直、コントラバスの位置からはトイピアノが客席にどの程度聴こえているか分からないので、

第三者にバランス調整を委ねるしかありません。


なので、

リハーサルでバランスを作ります。

加えて客入りの度合いによって、吸音される音域を補正したバランスで、本番では再現に加え調整をする必要があるのです。


トイピアノは、


耳馴染みが少ない=経験から音量を判断できない


という、非常に難易度の高い楽器だったかなと思います。

ゆえに、特に今回指揮者の存在は大変貴重で、

あのトイピアノを活かすには不可欠だったかなと思いました。



そこで次に、今回のイーハトーヴォ物語のコンサートの特殊性の話となりますが、



そもそも生楽器というのは、どんなに全力で弾いてもMAXもMINも、限界は有ります。


また、ホールの残響次第では音が回ってしまって、長く弾くと何弾いてるか分からない現象が起きたり、

デッド過ぎて響きを自力で作成する為に音量に対して弓の量を割けない様な事もおきたりします。


MAXはシンプルに楽器や己の能力、どれぐらい鳴らせる環境か、という所でしょうが、


MINに関していうと、

"お客さんに存在を感知させる"事が出来る範囲が、音量の限界かなと思います。


これらを踏まえ、

各曲、自身の出せるダイナミクスレンジから、

曲構成に沿ったダイナミクスを選択していくわけですが、


全部の曲で、MAXとMINを最大の振れ幅で使うわけではありません。


演奏する全ての楽曲をそれぞれ、どの程度の最大出力と最小出力が相応しいかを考えて、

そこからコンサート全体のエンターテイメント性を構築していきます。


…簡単に言うと、どの楽曲で盛り上がってブチ上げるか、とか、

どこでしっとり泣くか、とか、

笑い要素、絶望、怒り、とか、

どの感情へ揺り動かすか、という事です。


トイピアノソロの伴奏中は、最小出力だったわけではないのですが、

コントラバスとしては、案外あの曲のトイピアノ部分が、

コンサート全体の音量感、バランス感覚の基点として、重要な立ち位置にいた、と思っています。



これを頭の片隅に置いて頂き、

もう一つの話。


このイーハトーヴォ物語のコンサートで特筆すべきなのは、

「ボス」の音楽がない、という事。


語弊はありますが、大体RPGの演奏会で最大出力を行う時って、

「ボス」が多いです。異論は認めます。笑


エンディングの直前に、凄い感動する様なムービーが入るタイプのゲームだと、そこがMAXになる事もありますが。


エンディングはスタッフロールを兼ねる事が多く、その場合起伏の激しい、起承転結が明確な曲は長時間のスタッフロールには不向きな傾向があるかと思っています。



激しい戦いの後、しんみり終わるタイプの演出の方が、ゲームの収束に向かう感覚がプレイヤーに伝わり、

満足感を持たせる効果がある時もあるので、


エンディングでドンパチやるよりは、

ボスの方が、

・強さを表す

・大勢で立ち向かう

・大物感

の様な音楽になりやすい為、必然的に楽器編成数、音の密度、楽器の鳴りやすいテンポ、

等で最大出力で演奏する傾向があります。


まあ、ベートーヴェンの田園の最後みたいな終わり方のゲームもあるにはあるんですけどね…。笑



そんな中、イーハトーヴォ物語はコンセプトがそもそも宮沢賢治の世界なので、


戦闘がなく、ボスもおりません。


という事は、

公演内の音量の最大値を戦闘曲やボスに合わせる事は出来ず、


そうすると先程例に出した、エンディングへの収束感、という点については、

音量感とは別の表現をする事となります。


ある意味、ゲーム音楽を演奏する上で、

「ラスボス」にバランス感覚で甘えていたと痛感させられます…笑


という事は、

「ラスボス」に使われる様なMAXを設定出来ない、という事になり、


どこでブチ上がれば良いか、難しくなってくるわけです。


今回のイーハトーヴォ最大の難易度はここにあると思います。


ここで、ゲームへの理解を深め、そもそも視点を変えてみる必要があります。


このゲームはどういった構造なのかという事です。


イーハトーヴォ物語のコンサートをやる上で、最も考えなければいけないのは、


宮沢賢治の作品それぞれを題材に取り上げていること。


つまり、この類のゲームを音楽として演奏する為には、


標題音楽的でありつつ、何より"組曲"的な構造として演奏するのが望ましい、という事です。


RPGやアドベンチャーの様な戦闘がある構成では、必ずといって良いほど、重要なイベントやラスボスで盛り上がる要素が出てきます。

ストーリーの起承転結がはっきりしています。


たいして例えば、もじ○ったんコンサートがあったとして、ストーリーの起承転結が存在するでしょうか?


いやしない(反語


つまり、もじぴ○たんコンサートをするとしたら、

"組曲"的な構造の表現にした方が、コンサートとしてしっくり来るのです。


そして、"組曲"的な構造を演奏する時、

組曲では、小曲単位内で音楽を完結させていきます。


くるみ割り人形、とか、

ペールギュント、とか、想像して頂けると分かりやすいかと思います。


そこでイーハトーヴォ物語を演奏する為には、

まず小曲単位で考える事にシフトしました。


そうすると不思議な事に、

楽曲それぞれの持ち味を表現しやすくなったのです。


ブログの文字でこの体験を説明するのが非常に難しいのですが、


このしっくり感。


ど頭のイーハトーヴォ讃歌が音量のピークでも問題ないんです。

吹奏楽の指輪物語の組曲だってそうだしな。笑



意外と、大半のゲームはストーリーに加え、戦闘やラスボスなど、

ブチ上がる要素のヒントがあり、本能的にどこで音量感覚を取れば良いか分かり易いものが多いですが、


それに当てはまらないタイトルの演奏時は、

無理にエンディング前のラストで盛り上げようとか思わず、

組曲形式の感覚で、コンサートを築き上げていくのが良いかもしれないと思いました。


一貫して、稚雑なブチ上げかたをしない事で生まれる、

大人びた優しいイーハトーヴォ物語の世界観。


最近、「ゲーム音楽は要所要所、盛り上がらなくてはいけない」という固定観念に若干取り憑かれていたし、


本来盛り上げていない世界観のゲームを、コンサート用に無理に編曲で「エンド飾ります!!」みたいな事ってしなくても、


芸術的表現は出来るのではないだろうか、


と改めて考えさせてくれる、イーハトーヴォ物語でした。


こういった、文学表現的な演奏の仕方によるコンサートタイトルも増えたら、

ゲーム音楽のコンサートの在り方について、裾野が広がって良いなと思います。


俺の好きなmoonもそのタイプ…。笑

橋本 慎一

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