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ゲーマーコントラバス奏者の雑談2

【雑記】「無」とはいったい…「無」の話

タイトルは、とある「無」が大好きな某ボスキャラのセリフから…うごごごご…



日頃、ゲーム音楽の譜面をどの様に演奏するか考察する為に、

ゲームそのものの"表現描写"を紐解く事があります。


今回は、その中の一つ「無」の話。



例えば、ゲームにはセリフがありますが、

セリフが表示される速度や、

キャラクターAの言葉が表示され、

それをコントローラーのボタンを押して消えた後、

Bの言葉ウインドウが表示されるまでの"間"。


このような、"間"とはなんなのかを考えてみます。



数年ほど前、ゲーム音楽をこじらせすぎて、作る人間の考えを知らないといけないと思いたち、

趣味でゲームプログラミングをかじりだしたのですが、


セリフの話をすると、

別にやろうと思えばどんな速さでも表示出来るのですが、


ここに、様々なゲームクリエイター達は、

わざわざ面倒くさいプログラミングやアニメーションを組んで、


"間"を設けている事がわかりました。


本当、超面倒なんです。笑(大事な事なので



想像して欲しいのは、例えば"ヒロインが思い詰めた様子で何か過去の出来事を告白する"様なシーン。


ヒロインがゆっくりした足取りで2歩歩き、

顔を逸らして後ろに振り返り、

その場でうつむき、

そこでセリフの吹き出しが出て、

少しずつ、セリフが…ゆっくり、表示される…

かすかな沈黙の時間…



こんなシーンがあれば、神妙な面持ちが出ると思います。

でも、これをゲームでやるには、


1.ヒロインが

2.通常よりゆっくり歩行するモーション

3.キャラクター2マス分歩く移動

4."間"

5.顔を逸らして後ろに振り返るモーション

6."間"

7.うつむきモーション

8."間"

9.セリフの吹き出し表示

10.セリフの一言をスロー表示

11."間"

12.二言目をスロー表示

13."間"

14.三言目をスロー表示

15."間"

16.コントローラー入力可能に(セリフ送り可)


とか、やる必要があります。

いや、実際の玄人プログラマーでは、この一連の流れを何かで一貫させて、もっと簡潔かもしれませんが。


どう作るにせよ、


ゲームでの演出過程で、

"間"というものは表現の深みを与えます。


限られた画の制約の中で、プレイヤーにキャラクターの心境を想像させる上で、非常に重要であると考えられます。




次にお馴染みゲーム音楽、「BGM」の"無"について考えてみます。


演出の要となり、我々も日頃演奏会で弾いている、ゲーム音楽。


ゲーム音楽を流せば、画には出せない雰囲気が相乗されます。


先日のイーハトーヴォでいえば、シンシンと降り注ぐ、雪の美しさ。


エストポリスでいえば、マキシムの地上を救う自己犠牲的な覚悟。


幻想水滸伝でいえば、ネクロードさんの何処とない愉悦。



「BGM」は、様々なシチュエーションを彩る、重要な演出表現ですが、


たいしてあえての「無音」にする事があります。


「無音」とは何なのか?


流し続けられる音楽を止めて、わざわざここに"無"を表現する事の最大の意義は、


演出に"色を塗らない"事にあると思います。


どういう事かと言うと、


例えば街の音楽で、

懐かしい香りを感じる様な音楽が流れていたらホッコリするし、

アイリッシュ系の音楽で爆竹の音でも入っていたら、活気のある市場がありそうな気がしますが、


フィールドのBGMが流れている中、歩いてて、

街に入った瞬間に、


「無音」


だったらどんな気持ちになるでしょうか。


そこには、

どんな街かも情報を与えず、

何が起きるかも知らされず、


得体の知れない不気味さがゾッ…と走るか、

緊迫感でピリッと感じるかもしれません。

もしくは孤独の恐ろしさか。



ボス戦の曲とかって、敵の強さを直接表現しますが、


「無音」は、


ゲームから親切に委ねられてきた描写から突然見放されて、


孤独や不安、恐怖などを感じさせる、最高の技法の一つだと思います。


なんかホラー系なゲームで、ガンガン曲流れてると、なんか、うん…笑(個人の感想です



無音の中で、「ここに来るまで何回■■■」なんて言われた方が、ゾッとしますよね。



この先、ちょっと毒のある言い方になる話になりますが、

youtubeで映画やゲームプレイを倍速でみて楽しむ事自体を否定する事はしませんが、


"無"の表現を感じる上で、


その"無"の深みを知りたければ、あまり推奨は出来ないなと思う事があります。


最初に申し上げた、ゲームの"間"とかは、

例えばプログラミングでやるなら、コルーチンとか何とか使って、


わざわざ"間"を作者が書き込んでいます。


そして、そのフレーム数は、

「人間が本能的に感じる"間"」を作者が選んでいて、

先の例でいえば、


「涙を堪えて、息をのんで喋っている」


という表現の"間"なんだと思うのです。


他にも、

"タメて"放つ、とか、

"ビックリして"振り向く、とか、

"重くて"手応えがある、とか。



なので、倍速でみてしまったら、ストーリーは追えても、リアリティのあるキャラクターの"感情"まで深く理解は感じ取れないと。


もっというなら、コントローラーでセリフを送るにあたり、

プレイヤーに取らせたい"間"の為に、その数フレームだけボタンが入力出来ない、なんてものもあります。

そうする事で、操作する指から"間"をプレイヤーに伝えています。



芸術表現、音楽は勿論のこと、

特にナマモノである舞台や演劇などは特に、


早送りも倍速も出来ないので、

こういった"無"の美学が、そこかしこに散りばめられていて、

お客様はそれを生身で受けているはず。


この"無"の面白さを知り、表現する側なら身につける事で、

何か自身の考察に深みを持たせ、豊かな感覚を持つ力になると思います。


最強の力!世界を支配する力!

「無」の力!って言ってるボスキャラもいるくらいなので。


音楽、ゲーム、演劇、映画、


…アイスショーなんかもそうかもしれないですね。笑


そこに存在する"無"の意味を考えるだけで、凄く深い理解を得られる事もあるので、


是非、"無"の魅力に取り憑かれて欲しいなと思います。

橋本 慎一

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